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使う前に、選ぶ前に、これだけは知っておきたい部品のジョーシキテック君の豆知識

今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。

今回は【スイッチ〔前編〕】です。

<取材協力:日本開閉器工業株式会社様>



基本のルールを守る

■ 電圧と電流の制限

 - スイッチは機能がシンプルなので選ぶのも簡単。いろいろな形やデザインのものから好きに選べますよね。
図1 : 色々なスイッチ(写真は日本開閉器工業)


スイッチの選択で一番犯しやすい間違いとして、スイッチの電気定格を超えて、あるいは間違えて解釈して使ってしまうことが挙げられます。具体的には、電流定格(電流容量)と電圧定格(最大適用電圧)、それに負荷条件です。これらはスイッチの仕様に定められています。スイッチの定格がスイッチを使用する回路の仕様を満足することが選択の前提条件です。

 - オンオフするだけなのに電気定格があるんですか。
図2 : スイッチに流れる電流とスイッチにかかる電圧

例えば、電流定格があるのは、スイッチの接触部分には僅かな抵抗分R[オーム]があるからです。いわゆる「接触抵抗」です。スイッチが閉じられて(オンして)電流I[アンペア]が流れると、オームの法則とジュールの法則に従って、I×I×R [ワット] の電力が消費され、I×I×R×t [ジュール] の熱が発生します(tは時間[秒])。

接触抵抗は小さな値ですが、発熱量は流れる電流の二乗に比例するので、電流の増加が大きな発熱を招きます。定格電流を超えて使用すると、スイッチが加熱したり甚だしい場合は接点が溶融してしまう事もあります。

いっぽう、電圧定格は、主に電極間の耐電圧で決まります。具体的には接点間の距離と形状です。電流はスイッチオン時が問題ですが、電圧定格は接点が開いているオフ時が対象です。また、複数の回路が入っているスイッチでは回路間の電圧(耐電圧)も確保されなければなりません。

なお、スイッチが閉じる(オンする)瞬間には、面ではなく点で接触が始まります。この瞬間の接触抵抗はオン状態のそれよりも大きいうえに、電流は接触点に集中します。このため、瞬間的にですが接点上の微少部分に局所的な発熱を生じ接点にダメージを与えます。また、オンまたはオフの刹那での接点間距離は微少なので、回路の電圧は低くても電界(空間での電圧の傾斜)は極めて大きくなります。その結果、微細な火花やアーク放電が起こります。回路電流が大きいと電気溶接をするのと同じことになりますので、大きなダメージになります。また、放電は一度始まると持続する性質があります。したがってオフ時に大きな放電が起こるとオフできなくなるという事態も起こり得ます。交流では、その後に電圧がゼロになるので放電が止まりやすいのですが、直流では持続し易いため、小さな電流で使わなければなりません。例えば、AC125V定格のスイッチをDC125Vで使う場合は電流容量は約1/20になります。

因みに、電流と電圧の定格はそれぞれ別の理由から定められていることに注意してください。両者を掛け算したワット数は意味を持ちません。
ワット数の範囲内ならば電圧か電流どちらかが超えても良い、という誤解がありますが、これは間違いです。

大は小を兼ねません

■ 小も大を兼ねない。

 - 分かりました。定格を超えないように、なるべく大きなスイッチを使えば良いわけですね。

残念ながら、スイッチの場合、大は小を兼ねません。例えば、電圧電流ともに小さな信号回路に、電源用の大きなスイッチを使うのは格好も良くありませんが、電気的にも上手くないのです。小さな信号にはそれに見合った定格の小信号用スイッチを用いてください。

これは、スイッチの接点構造と材料に起因しています。

スイッチの接点材料には、金や銀、白金・金・銀の合金などがあり、小型のタクトスイッチなどでは導電性ゴムが使われているものもあります。これらの接点材料にはそれぞれに適した電流の大きさがあります。また、スイッチの二つの接点電極のうち、可動側と固定側では適する接点材料や形状が異なり、スイッチそれぞれの電流定格で最も相応しい材料と構造が採用されています。

定格が不足するときは複数の回路が入ったスイッチを使って並列接続や直列接続すれば良い、という上手いアイデアを思いつきました。
図3 : 接点の並列接続

それも、ちょっと問題です。小も大を兼ねないということです。
例えば、2回路入りのスイッチを並列接続で使うと電流を2倍にできる気がするかもしれませんが、実際にはNGです。二つのスイッチが時間的に完全に一致して動作することはなく、オンする瞬間にはひとつのスイッチと変わらないからです。

ただし、電流容量ではなく接点の接続信頼性を上げるという点では並列接続は意味のある使い方です。(図3)

同様に直列に接続するのは、実質的な接点距離の増大やアークが起こる時間を短くするなどの効果を期待できます。しかしながら、電圧定格が2倍になるというわけではありません。

話は少し違うのですが、電源スイッチとして使う場合は、必ず「両切り」とするのが一般的です。両切りというのは、ACラインの2本の線の両方をひとつのスイッチで入り切りすると言うことです。

片側だけをオンオフするのは、安全上問題があります。

相手のことも考えよう

■ 負荷条件ってなに?

 - スイッチにも負荷条件があるんですね、負荷は電源やアンプに対して考えるものだと習いましたけど。
図4 : 負荷の過渡現象

もちろん、スイッチが電力を発生するわけではありませんが、スイッチの定格は、純抵抗負荷の回路で使う場合を想定して規定されています。この場合、電気的な過渡現象は発生しません。スイッチオフで電流ゼロ、オンした瞬間から一定の電流が流れます。

これに対して、実際の使用状態では負荷の種類によって様々な過渡現象が生じます。

例えばランプを点灯させる場合、オンした瞬間の温まっていないフィラメントの抵抗値はかなり小さく、定常時よりもずっと大きな電流が流れます。同様に、モータの起動時(回転が始まるまでの短い時間)には定常時の何倍もの電流が流れます。いっぽう、ソレノイドなど巻線を持った誘導性のインダクタンス部品では、オフ時に大きな逆起電力が発生してスイッチの接点間に加わります。

したがってこれらの回路に用いるスイッチには過渡的に生じる大きな電流や高い電圧に耐え得るものを選ばなければなりません。大凡の目安としてはモータ負荷で3~8倍、ランプでは10~15倍の電流を見込みます。インダクタンス部品やコンデンサ負荷では回路側で過渡現象を少なくする工夫も必要です。(図4)

      スイッチ〔後編〕へつづく

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