今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。
今回は【ニッパ・ラジオペンチ編】です。
<取材協力:フジ矢株式会社様>
ものづくりのベーシックツール
■ 種類と用途
- - ペンチとラジオペンチは何が違うのですか
ニッパやペンチは屋内配線工事や微細なメカニックの組み立てなど様々な分野で使用される汎用工具ですが、エレクトロニクスにとっても欠かせない工具です。電子機器やプリント板などの組み立て配線や測定の際には半田ゴテと共にラジオペンチとニッパが欠かせません。ニッパはリード線や部品リードの切断、ラジオペンチは切断の他に部品やリードを掴んだり折り曲げたりするのに使うわけですが、最近の電子機器は小型化・微細化が進んでいるため、工具も精密なものが多く使われる傾向にあります。
ちなみに、いわゆるペンチとラジオペンチとに明確な定義の違いはありません。ペンチは強電など比較的太い線材などを扱うためのものであるのに対して、ラジオペンチは弱電での細いリードや部品を扱うことを想定しているため、先端形状が細くなっています。なお、部品やリードを摘んだり挟んだりするだけを目的としたものはリードペンチと呼ばれます。
ひとつひとつに理由がある
■ 選定と構造
- - 種類がたくさんあって、選ぶのに迷います。
ラジオペンチやニッパは形状やサイズがJISで規定されていますが、エンジニアが日常的に使う工具であることから「コダワリ」を持って選定・使用するプロフェッショナルがたくさんおり、製品のバリエーションは豊富です<図1>。
選定に当たっては対象とする相手の材料(材質)や大きさ、線材では材質と太さ(線径)が選定の出発点になります。そのうえで手に馴染むか否かでサイズやグリップの材質や形状を選ぶと良いでしょう。刃の劣化が少ない超硬刃を付けた製品やグリップも成型したものや二重にしたものなどがあります。なお、ニッパやペンチのサイズは「呼び寸」で言い表すのが普通です。
切断部の刃の断面形状と合わせ面の違いについても知っておきましょう。例えば、ペンチの刃の部分とニッパの刃では断面形状が異なります。ペンチや両刃のニッパは比較的太い線を切断するので、刃が厚く頑丈になるように両刃になっています。これに対して片刃のニッパでは細い線を正確に切れるように刃が薄く刃の外に切り残しが出ないような形状をしています<図3>。 樹脂成型品の切り離しなどに用いるプラスチックニッパでは切る対象物の形によってストレート刃とラウンド刃を使い分けることもあります。また、刃の合わせ面を子細に見ると、ペンチは力が逃げにくいように刃がかみ合わせの内側から合わさっていくのに対して、ニッパでは先端から刃が合わさっていくようにしてあるのが分かります。
したがって、線材を切断する際には、ペンチでは中心に近い位置、ニッパでは先端部を用いるのが適しています。 一方、掴む部分について見ると、電工用など大型のペンチでは大きなものを強い力で掴むので、握りしめても先端部は若干のスキ間が空いたままになるようにしてあるのに対して、ラジオペンチやリードペンチでは細かな部品を掴みやすいように先端部が先に接触します。
職人の技
■ 製造工程
- - よく眺めると、どちらも複雑なカタチをしていますね。
ペンチやニッパは精巧な刃物である一方で手の力がきちんと刃に伝わり余分な歪みや撓み(たわみ)があってはならないという強靱さも必要とします。材料はステンレスなども用いたものもありますが、精密さと強靱さを満たす必要があることから、多くは鉄の鍛造(たんぞう)品です。
鍛造は焼いた鉄を叩いて強く緻密に成型していく製法で、日本刀の刀鍛冶が鉄を打って作るのと原理は同じです。ペンチやニッパでは型鍛造といって強力な金型を使いますが、溶けた鉄を型に流し込む鋳物(いもの:鋳造品)とは異なります。
ちなみに、製品になるまでにはかみ合わせ部の座繰りや刃付け加工など60以上の工程を経ます。<図4>
刃物の心得
■ 取り扱いとメインテナンス
- - プロの使う道具は取り扱いもシビアなのでは?
ペンチやニッパは精密な刃物であるという認識は持って欲しいものです。例えば、ペンチをハンマー代わりにして硬いものを打ち付けたりするのは禁物です。当然ながら、定められた材質より硬い材料や太い線を切るのも避けなければなりません。
意外にやってしまいがちなのが線材を切る際にペンチやニッパをこじる(ひねりながら切る)ことです。こじりながら切ると刃に横向きの力が加わるため刃こぼれやガタツキの原因になります<図5>。刃は垂直に当て一気に切るようにしてください。
なお、ビニル線などの被覆を剥くのにペンチやニッパを使うことがありますが、芯線を傷つけやすいので注意してください。ペンチやニッパによる被覆の剥離は簡易的なものと考え、信頼性を要求される作業にはワイヤストリッパなどの専用工具を用いることが推奨されます。
作業安全の面からは、活線(電源の入った状態)で作業してはなりません。グリップの絶縁をあてにして活線を切ったり挟んだりする例を見かけますが極めて危険です。弱電でも回路や部品同士をショートして壊してしまう危険があります。日常のメインテナンスとしては鉄製品であることから作業後は油を含ませたウエスで拭くといった心がけが長持ちのコツです。日常的に使う道具ですので大切に扱いたいものです。