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今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。

今回は【シャント抵抗器(SMD)編】です。

<取材協力:釜屋電機株式会社 様>



電流を電圧に変える

■ SHUNT の意味

 - シャント抵抗器って何ですか

シャント抵抗器とは回路の電流を検出するための抵抗器のことです。シャント (shunt)には元々 「脇へそらす」「回避する」といった意味があります。電気回路では「分流器」と訳され、主に指針式電流計の指示範囲拡大のために電流計に並列に接続する抵抗のことを指していました。現在では電源の電圧安定化する目的で負荷と並列に入れる抵抗やそのための安定化回路のほか、単に電流検出用の抵抗器のこともシャントと言われるようになりました。

回路の電流を扱いやすい電圧として検出するには、ホール素子を使ったり電流トランスを使ったりする方法もありますが、最もシンプルなのは回路に直列に抵抗器を挿入して抵抗器の電圧降下を検出することです。このための抵抗器がシャント抵抗器で、回路への影響を小さくするため、数十mΩ~数百mΩの低抵抗が用いられます。

シャント抵抗器には電力機器などの電流を検出する大型のものから、携帯電話など小型電子機器のボードに実装される小型なものまであります。小型のシャント抵抗器では1005サイズなど超小型化とSMD(表面実装部品)化が進展しています。

省電力と安全の素

■ 電流検出のニーズ

 - どんな場合に必要ですか

例えば、電池駆動の機器では、電池の充電を安全かつ効率的に行うために充電電流を監視し、充電電流を逐次調節しています。同様に液晶テレビではバックライトの電流を検出して制御しています。LEDに流れる電流を元に明るさを調節している機器もあります。また、自動車の室内灯などは万一の断線や短絡に備えてランプの電流を監視しているものがあります。

別の例としては、最近のDCブラシレスモータなどは、モータの界磁電流をダイナミックに制御することで精密な回転制御を実現しており、それには巻き線を流れる電流の検出が欠かせません。また、シャント抵抗器の本来の目的からはやや外れますが、電源ラインなどのインラッシュ(突入電流)を押さえる目的でシャント抵抗器を挿入することも行われます。

上側か下側か

■ ローサイドとハイサイド検出

 - 抵抗を入れるだけなら設計は簡単です
図1:ローサイド検出

シャント抵抗器は単なる抵抗器ですから、オームの法則で値を決めることができます。具体的には検出する最大電流でその時得たい検出電圧を割った値がシャント抵抗器の抵抗値です。しかしながら、そこに至る前に考えなければならないことがいくつかあります。

シャント抵抗器を用いる場合にはまず、回路のトポロジー(回路形態)を決めなければなりません。シャント抵抗器を電流通路に挿入するということは電源と負荷とシャント抵抗器の直列回路を構成することになり、二通りの形態が考えられるからです。ひとつは<図1>のように負荷のグラウンド側にシャント抵抗器を入れるローサイド検出です。ローサイド検出は検出電圧が対グラウンド間に生じるので、シングルエンドの簡単な検出回路が使えるメリットがあります。しかしながら、ローサイド検出では負荷はシャント抵抗器でグラウンドからフローティングされます。接地された負荷には使用できないわけで、使用できるシーンは限られます。

図2:ハイサイド検出

これに対して、負荷の電源側にシャント抵抗器を配置するのが<図2>のハイサイド検出です。ハイサイド検出は接地された負荷でも使えるうえ、検出回路を電源の近くに配置できるので、制御回路と接続し易いメリットがあります。例えば折りたたみ式携帯電話でディスプレイの電流を検出する場合、ローサイド検出では検出した信号を折りたたみのヒンジ部分を通して電源と制御回路がある本体側まで導かなければなりませんが、ハイサイド検出なら本体側だけで処理できるわけです。

その一方、ハイサイド検出ではシャント抵抗器がフローティングとなるため、検出回路入力には電流路の電圧(電源電圧)と同じコモンモード電圧が加わります。検出電圧は電流通路の電圧と比べるとはるかに小さく、大きなコモンモードに曝された微少な差動電圧を検出することになるため、大きなCMR(コモンモード除去比)およびCMV(コモンモード耐圧)を持つ検出回路が必要になります。このため、最近ではハイサイド検出の専用ICを使うのが一般化してきました。

出来るだけ大きく、出来るだけ小さい

■ 抵抗値の決定と品種の選定

 - 選定の手順を教えてください

回路のトポロジーと使用する検出回路(IC)が決まると、検出する電流に対する検出電圧の大きさ、つまり変換利得を設定できるようになるので、ここで始めてシャント抵抗器の抵抗値を計算できることになります。その際、検出回路側からすればノイズや安定度などの点で変換利得は小さい方が好ましく、シャント抵抗器はできるだけ大きな抵抗値にしたいわけですが、電流通路側からすれば、抵抗が入ることで電源インピーダンスが上がってレギュレーションが悪化するほかシャント抵抗器での電力損失も生じるので、できるだけ小さい値が好ましいと言えます。したがって、検出回路と電流通路両者の要求の妥協点を定めることで最終的な値が求まります。

なお、抵抗値と同時に最大電流と抵抗値からシャント抵抗器に必要な定格電力も計算します(P=I2×R)。その際、電流に関しては検出する最大電流の他に突入電流など過渡的な大電流の有無もチェックしてください。短い時間でも大きな電流が流れると急激な温度上昇が起こり抵抗器が焼損する恐れがあります。抵抗器自体の電力定格のほか、プリント基板の銅箔面積など放熱も合わせて検討してください。実装の都合等でシャント抵抗器の周囲温度が高くなることが予想される場合は温度ディレーティングも考慮します。こうして得られた抵抗値と定格電力、さらに抵抗値の精度(許容誤差)や温度係数から要求に合致するシャント抵抗器を選びます。

どこからどこまでがシャントか

■ 低抵抗ならではの注意点

 - 通常のチップ部品と同様に実装できますか
図3:誤差の大きなパターンの例

シャント抵抗器は抵抗器としての部品に他ならないので、チップタイプのものであれば他の表面実装部品と同様に扱うことができます。ただし、シャント抵抗器は低抵抗であるため、低抵抗ならではの配慮が必要で、配慮を怠ると電流検出の精度や安定度が悪化してしまいます。

例えば、<図3>はシャント付近のプリントパターン例ですが、同図のようにシャント抵抗器から離れた位置から検出信号を取り出すようなパターンにするとパターンの持つ銅抵抗による電圧降下も一緒に検出してしまうことになり大きな誤差を生じます。因みに<図4>は銅パターンの抵抗計算式と結果のグラフです。箔厚35μmでパターン幅1mmの場合、パターン長1cmで約5mΩになります。シャント抵抗は数十mΩ~数百mΩ程度が一般的ですので、パターンの銅抵抗は無視できません。さらに、銅の抵抗温度係数は約4000ppm/℃(0.4%/℃)と、一般的なシャント抵抗器の温度係数より1桁近く大きいので、温度に対する安定度も悪くなります。

図4:パターンの銅抵抗
図5:誤差の少ないパターンの例

パターンの銅抵抗に起因する精度の悪化を防ぐには、<図5>のようにシャント抵抗器の直近からパターンを分離して検出回路へ導くようにします。電流通路と電圧検出を別ルートにすることで電流通路の抵抗分による誤差を無くすことができます。検出回路までのパターンにも抵抗がありますが、検出回路の入力インピーダンスが高いので無視できます。

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