ホーム  >  オンライン技術情報  >  テック君の豆知識  >  サージアブソーバ編

使う前に、選ぶ前に、これだけは知っておきたい部品のジョーシキテック君の豆知識

今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。

今回は【サージアブソーバ編】です。

<取材協力:三菱マテリアル株式会社>



地震・カミナリ・ESD

■ サージの実態

 - 夏は落雷、冬は静電気に悩まされています。

海の大波や物価の急騰などをサージ(Surge)と言いますが、電気の世界では落雷などによって電源線や通信線上に発生する過渡的な異常電圧や異常電流をサージと呼んでいます。

雷が機器に直接落ちるような特別な環境は別として、近隣の落雷(誘導雷)によるサージは頻繁に発生します。例えば、関東甲信越を中心とした500km四方における年間の平均落雷数は約10万回に達するほか、誘導雷によって低電圧配線(商用電源の引き込み線)に誘起されるサージは2~5kVのものが約70%、15kVを超えるものも約6%という統計もあります。なお、季節による変動はありますが、夏のものというわけではありません。 一方、人体が帯びた静電気の放電はESD(Electro Static Discharge)と呼ばれ、雷同様にサージとして電子機器に大きな影響を与えます。ESDの静電エネルギーは小さいとはいえ、歩行や衣服の着脱、クルマの乗降などによって数kVまで簡単に帯電します。

緊急待避通路

■ サージアブソーバの仕組み

 - 何故サージを吸収(absorb)できるんですか

サージアブソーバは交流の電源ラインや電話線、LANケーブル、アンテナ線、操作者の指先などから侵入するサージを機器の入り口で阻止します。ただし、アブソーバという名前は付いていてもサージのエネルギーを吸収するわけではありません。サージアブソーバには幾つもの方式がありますが、ここではマイクロギャップ式アブソーバを例にお話しします。

図1:マイクロギャップ サージアブソーバ

<図1>はマイクロギャップ式のアブソーバの構造図です。脇に写真で示したリードタイプのほかにSMD(表面実装)用のチップ形状のものもありますが、何れも不活性ガス入りの放電管を形成しており、マイクロギャップをはさんで対向する電極は薄膜でできています。キャップ電極間にサージの高電圧がかかると、アーク放電が起き、両電極間は導通状態になります。これによりサージの侵入ルートが短絡され機器が保護される仕組みです。つまり、サージアブソーバは保護短絡のスイッチとして働き、サージの侵入を防ぎます。

十人十色

■ 各種アブソーバの得失

 - 色々な方式があると使い分けが難しそうです

アブソーバには色々な原理のものがあります。大別するとマイクロギャップのように放電を利用したものとツェナー(アバランシェ)ダイオードやバリスタのように半導体の非直線性を利用したものの2種になります。それぞれに得失がありますから、使い分けされています。例えば放電式のガスアレスタは電力機器などに適し、小型のツェナーダイオードは小型電子機器のESD対策に使うという具合です。各アブソーバには用途が示されているはずですから、それに従えばよいのです。<図2>には主に機器のAC入力部分に使用するアブソーバの典型的な定格を示しました。

図2:サージアブソーバの典型的使用例
  マイクロギャップ ガスアレスタ Si系電圧素子* バリスタ(ZnO)
動作電圧 140~7800V 75~5500V 6~200V 150~1800V
漏れ電流 ~10-8A ~10-8A ~10-7A ~10-7A
静電容量 数pF 数pF 数百~数千pF 数十~数万pF
サージ耐量 ~3000A ~10000A ~300A ~7000A
*ツェナー(アンバランシェ)ダイオード

当然ながら原理が異なれば動作形態も異なります。一例として<図3>に電圧試験の源波形とアブソーバを接続した際の波形を示しました。マイクロギャップでは電圧上昇後直ちに導通状態となり端子電圧はゼロに近くなりますが、バリスタでは一定の電圧が維持されるのが分かります。このため、バリスタでは通常、ヒューズを併用します。

[a]:源波形
(10/1000µs 1000V)

[b]:マイクロギャップ

図3:電圧試験波形例

[c]:バリスタ

気体放電現象

■ マイクロギャップの特性

 - 特性上で知っておかなければならないことはありますか。
図4:マイクロギャップと
バリスタの複合製品

マイクロギャップのアブソーバは気体中の放電現象を利用しています。したがって気体放電特有の性質を持っています。まず知っておきたいのは、端子間電圧をゆっくりと上昇させたときの「直流放電開始電圧」とサージのような瞬時的な上昇をさせたときの「インパルス放電開始電圧」とは異なるという点です。通常は、インパルス放電開始電圧の方が高い電圧になります。二番目は、気体放電というのは一度放電が始まると放電を維持しようとする性質についてです。例えば元々の回路電圧が高くインピーダンスも低い条件が重なると、サージによって放電が始まった後も放電が続行すること(ホールドオーバー/続流)があります。交流では半周期毎に電圧がゼロまで下がりますが電源ラインは低インピーダンスであるため放電が続く可能性があります。これを回避するには、アブソーバに直列に抵抗(3Ω程度/100V系)またはバリスタを入れます。初めからバリスタを直列にしてある製品もあります。<図4>

適材適所

■ アブソーバの使い方

 - 回路の何処に配置すればいいのでしょうか、実装法なども教えてください。

<図5a,b>に電源ラインでの適用例を示しました。サージは線間と対地間の二つのモードで侵入するので、それぞれに対してアブソーバを配置します。通信線などに適用する場合にもアブソーバの定格が異なるだけで同じ考えを適用できます。

なお、対地間にアブソーバを入れる場合、機器の絶縁・耐圧試験時に試験器の電圧でアブソーバが動作してしまうことが考えられます。このため、試験器の電圧より動作電圧が高いアブソーバを選んでください、低い動作電圧のものを装着する場合は試験時にアブソーバを取り外す必要があります。 <図6a>はエアコンの電源への適用例です。このエアコンではノイズ対策として大きなラインフィルタが入っていて一次側のアブソーバの動作によりフィルタに大きな起電力が発生することが考えられるため、フィルタの入出力間にもアブソーバを入れています。

<図6b>はテレビや無線機などアのンテナから侵入するサージの保護例です。機器に対応する動作電圧と耐量の品種を適用しますが、アンテナや高速のデジタル通信線などに使用する場合は、静電容量の小さなアブソーバを使うことが必須になります。アブソーバの容量が回路に並列に接続されるからです。

実装上では、第一に機器の入り口直近に配置することを心がけてください。さもないとサージが機器内部に入り込んでしまいます。同様に、サージ電流の帰路となるグラウンドパターンを引き回すのも良くありません。引き回しが必要な場合は、機器の周辺部となるようにします。アブソーバと他のパターンを近接させることも避けてください。

関連ページ ショートカット

ページの先頭へ