

今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。
今回は【積層セラミックコンデンサ編】です。
<取材協力:太陽誘電株式会社 様>

小さいのに大きい
小型大容量
- どんな特長があるコンデンサですか
積層セラミックコンデンサ(以下MLCC)は、酸化チタンやチタン酸バリウムなどの誘電体と電極を多数積み重ねたチップタイプのセラミックコンデンサです<図1>。セラミックが持つ優れた高周波特性などのメリットを活かしながら小型で大容量を実現できるため、電子回路の広い範囲で使われるようになりました。特に大容量のMLCCはバイパス、デカップリング、平滑、バックアップなどに用途が拡がり、電解コンデンサやタンタルコンデンサからの置き換えも進んでいます。
図1:MLCCの内部構造

コンデンサなのにLCR
等価回路で考える
- 高周波や高速信号に向いているのですか
コンデンサは誘電体を電極で挟み込んだ素子ですから、誘電体の特性がコンデンサの特性に大きく影響します。大容量MLCCに使われる誘電体は高誘電率のセラミックですので、シンプルな構造のまま容量の大きなコンデンサを形成でき他のコンデンサに比べ高周波性能に優れると同時に高絶縁かつ低リークで耐湿性などにも優れます。とはいえ、現実には有限の特性を有し、無限の周波数まで使える理想コンデンサというわけではありません。実際の部品としてのコンデンサには電極構造などに伴うインダクタンス成分なども含まれます。結果として、<図2A>の等価回路のように理想コンデンサと直列に小さな抵抗(ESR)とインダクタンス(ESL)が接続された部品であると考えることができます。LCRの直列回路ですのでインピーダンスは共振特性を示します。共振周波数はCとESLの値で決まり、共振周波数付近の特性はESRに支配され具体的には<図2B>のようになります。厳密にはESRが周波数によって変化するなど図2Aの等価回路では表現しきれない部分もありますが、他のコンデンサに比べてESL、ESR共に小さいのでコンデンサとして高い周波数まで動作し共振周波数付近のインピーダンスが小さく、低インピーダンス領域が広いので、高周波や高速信号あるいはノイズ対策等に向いていると言えます。例えば<図3>は電源の出力にMLCCとタンタルコンデンサを使った場合(何れも100μF)についてパルス負荷に対する応答を比較したものです。タンタルではESRによるステップ状の電圧変動が見えますが、MLCCはESRが小さいので段差がほとんど観測できません。一方、<図4>はコンデンサをデカップリングに使用したときの過渡応答の比較例です。因みにデカップリングでの端子電圧は負荷の急変に対して時間的に3種類の低下形態を示します。第一は急変直後10ns以内の低下でコンデンサのESLによって生じます。第二は200ns程度までに起こる低下で、これは主に容量で決まります。第3はESRによるもので、長い尾を引いた低下として観測されます。
図2:等価回路 [A]とインピーダンス特性例 [B]
![等価回路 [A]とインピーダンス特性例 [B]](../../images/techinfo/techmame/0907/img02.jpg)
図3:電源に使用時のパルス負荷応答

図4:デカップリング回路での応答比較例

やや、ややこしい
形状と特性の種類と表記
- 温度特性とか種類がたくさんあります
MLCCは、製造に当たって誘電体の特性を様々に制御できるので、色々な電気特性を持つ製品バリエーションがあります。選択に当たっては使用目的に合ったものを選ぶことが大切です。手順としては静電容量と耐圧を出発点とし、サイズ、温度特性などで絞り込むのが基本です。サイズは一般のSMD(表面実装部品)と同様に縦横の長さで呼ばれます。その際、ミリを基準にした日本流(JIS相当)とインチを基準にしたアメリカ流(EIA相当)二通りの呼び習わし方があり、例えばEIAの0603サイズはJISでは1608となるなど間違えやすい面があるので注意してください<図5>。また、各種の温度特性を持つ製品群があるのがMLCCの大きな特徴で、選択のポイントでもあります。MLCCの温度特性はまずClass1とClass2の2種類に大別され何れも静電容量変化率と使用温度範囲によって特性コードが規定されています。Class1は信号回路用で、比較的小容量のグループです。0±60ppm/℃(CH特性)など温度に対する容量変化率がごく僅かなものや容量にわずかな負の温度係数を持たせることで回路の温度補償などに用いるためのもの(RH特性など)があります。一方、Class2は電源回路やカップリングなどに用いる大容量のグループです。特性の種類が多いほかこちらもJISとEIAの呼称がある、JISとEIAで基準温度が異なる等のためやや分かりにくいかもしれませんが、特性の違いが大きいので選択に当たっては確認を忘れないでください。<図6>に特性と呼称の関係を整理しておきました。
図5:サイズの表記

図6:温度特性コード


電圧で容量が変わる
バイアス依存とDC定格
- 選定や設計に当たって注意点はありますか
MLCC(特にClass2)は小型・大容量・低ESR・低ESLが大きな特長ですが、同時に他のコンデンサとは異なる特性を示す部分もあります。DC電圧に対する容量変化が大きいのもそのひとつです。<図7>は定格電圧10V容量100μF品のDC電圧対容量特性例ですがDC10Vが加わった状態での容量は無印加時の30%まで低下します。電源回路などに使用する場合に直流電圧が加わることで容量が回路の許容値下回ることも考えられるわけで、設計に際しては値に余裕を見込んでおく必要があります。耐電圧は変動のピークで定格いっぱいまで見込むことができますが、定格の80%以下で使うことが推奨されます。スイッチング電源回路などで使用する場合のリップル電流なども定格値以内で使わなければならないことは言うまでもありません。
部品特性については、電子部品各社よりツールが提供されています。太陽誘電株式会社の場合は太陽誘電ホームページよりダウンロード出来ますので参考にして下さい。
図7:DCバイアス対静電容量特性例
