

今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。
今回は【放射温度計とサーモグラフィ編】です。
<取材協力:株式会社 フルーク 様>

温度測定の離れ業
■ 対象に触れずに温度が分かる
- - 放射温度計は普通の温度計とは少し違いますね
温度の測定と管理は、ビルなどの設備や工場の生産ライン、食品の製造や保存などにおいて極めて重要な要素です。温度は温度計で計るわけですが、一般の温度計は何れも対象物や対象となる雰囲気(気体や液体)と接触させて計る必要があります。これに対して、放射温度計は温度計を測定対象に向けるだけで温度が分かるという大きな特長があります。
例えば、稼働中の電気設備で過熱部の有無をチェックする場合には、高電圧が印加された部分に温度計(センサを)接触させることができません。その場合も放射温度計なら非接触で対象部分の温度が分かります。また、非接触なので食品など直接触れることがはばかられる対象の温度測定にも向いています。応答速度も0.5秒程度と他の方法に比べて速く、測定できる温度範囲も比較的広いこともメリットです。
放射温度計の発展形として「サーモグラフィ(熱画像装置)」も使われる機会が増えています。放射温度計が対象物(範囲の)温度を1個の数値として出力するのに対して、サーモグラフィでは温度の分布を2次元の画像として捉えることができるほか可視画像と比較も可能です。

赤外線の波長と物体の温度
■ プランクの法則
- - なぜ非接触で温度が分かるのでしょう
放射温度計は物体が放射する赤外線量を検知し、温度に換算して表示します。物質の出す赤外線から温度が分かるのは、物体が放射する赤外線の波長と量が物体の温度に依存しているからです。
<図2>は黒体(反射等が無く放射だけと見なせる理想体)から放射される赤外線のスペクトルを物体の温度をパラメータとしてプロットしたもので、プランクの法則から導かれるものです。ちなみにこの関係は、物体の如何に関わらず成立します。図から温度が上昇するにつれて赤外線の量が増えるのと同時に波長のピークが短い方へシフトして行くのが分かります。
さらに、ある波長に注目した場合は、赤外線の量が温度と対応関係を持つことも分かります。放射温度計(赤外線単放射温度計)はこのことを利用しています。具体的には光学フィルタで特定波長の赤外線を切り出し、その量をサーモパイルと呼ばれるセンサで電圧に変換して温度を算出しています。サーモパイルは多数の微少な熱電対を面状に並べた高感度なセンサです。
一方、サーモグラフィでは情報を画像として捉える必要があるため非冷却マイクロボロメーターなどの二次元赤外線センサを使い、カメラと同様にセンサ面で像を結ぶように造られています。

表示温度の持つ意味
■ 測定エリアとD:S比
- - どこの温度を計っているのか良く分かりません
放射温度計は汎用のものでも±1℃以内と高精度な温度計です。しかしながら、実際の測定では他の誤差要因が入り込むので、放射温度計の性質と測定誤差について理解しておくことが大切です。 基本的に心得ておきたいのは、放射温度計は外部からの赤外線を受けて反応する受動的な測定器であるという事実です。
<図3>は温度計に入射する赤外線の範囲を示したものです。見て分かるとおり、温度計から離れるほど範囲は広がりを持ちます。測定対象がこの範囲より小さくても大きくても測定精度は低下します。例えば距離が離れた場合は、放射温度計は入射した赤外線量を反映するものなので、特定のスポットではなく図の赤いエリアの平均温度を測定することになります。距離と測定範囲の関係は機種によって異なりますが、カタログにはD:S比が示されているので、基本的には距離が分かれば測定範囲が、範囲が分かれば必要な距離を計算できます。
なお、レーザーやLEDのマーカ光を発射できるタイプのものもありますが、マーカは温度計を向けた方向が分かりやすいようにするためのもので、マーカが当たったポイントの温度を測定するというわけではありません。

測るのか測ってしまうのか
■ 放射率
- - ガラスなど透明な物体の温度はどうなるのですか
放射温度計は、物体の温度と放射赤外線との関係を基にセンサに入射する特定波長の赤外線量を測定します。したがってセンサに入る赤外線の全てが物体から放射されたものであるならば正確な温度が表示されます。反対に、もし物体からの放射以外の赤外線がセンサに入射すると、それらは測定の誤差要因となります。
<図4>はその因子を表しています。放射による赤外線エネルギーの他に周囲からの赤外線が反射したものや物体の背後から透過してきた赤外線もセンサに入射するわけです。実際にこれらの割合がどの程度であるかは物体の材質や表面処理などによって大きく異なります。
センサに入射する全エネルギーを1としたときの放射エネルギーの割合を「放射率」と呼び、黒体は1、木材や塗料などで0.9~0.95程度、鏡面研磨された金属などではほとんどゼロです。放射温度計は放射率を考慮して温度を算出しますが、測定対象と温度計の放射率が一致することが理想です。実際の温度計ではモデルによって放射率が0.95程度で固定式のものとユーザが任意に設定できるものがあります。いずれにせよ、鏡面など放射率の低いものはそのままでは誤差が大きくなります。そうした場合は測定対象に塗料を塗るかテープを貼るなどの対処をします。
図5:放射率の違いによる測定誤差の検証例物体の放射率によって測定値が変わる様子をサーモグラフィで検証したのが<図5>です。Aは缶の塗装を一部削ってあります。削った部分も同じ温度であるはずですが、その部分だけ高温であるかのように見えています。Bは缶を光沢のある机の上に置いたものですが、この場合は机で反射した赤外線によってその部分が缶の温度に近いように感知されています。 透明な物質も要注意です。空気などは透過率が高く放射はほとんどありません。これに対して水の放射率は0.95程度あり、表面温度を測定できます。一般的なガラスは波長の長い赤外線はほとんど透過せず、板の向こう側の物体の温度を測ろうとしてもガラス板の温度が測定されます(短い波長を使う高温用の温度計ではガラスは透過して測定される)。アクリル板などの透明プラスチック類は種類や厚さにより透過率が異なります。
