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使う前に、選ぶ前に、これだけは知っておきたい部品のジョーシキテック君の豆知識

今さら聞けない あんな質問、こんな疑問を、RSが代わりに伺ってきました。

今回は【サーメットトリマ編】です。

<取材協力:日本電産コパル電子株式会社 様>



半固定の半とは

■ 可変抵抗器との違い

 - トリマのことを半固定抵抗器と言いますよね。固定が半分とはどういう意味ですか。

ボリウムやポテンショメータなどの可変抵抗器はセットのパネル面にツマミを付けてユーザが回すためのものですから、膨大な回数の設定が繰り返されることを想定して設計されています。これに対して半固定抵抗器(トリマ)は機器内部で回路の抵抗値を微妙に合わせ込むことで他の部品のバラツキなどによる個体差を取り除くトリミング(Trimming)のための部品ですから設定される回数はわずかです。例えば計測器などで製品の指示値の較正に用いる場合は工場出荷の際に一度設定されるだけでしょう。

したがって例えば私共のサーメットトリマでは200サイクルを限度と想定しています。そのいっぽうで、トリマというのは、設定した後には設定が狂っては困るわけで設定後の安定に対する様々な工夫が盛り込まれています。

実際のトリマには固定抵抗器と同じように、使われる抵抗体の材料によってカーボン(炭素皮膜)、金属巻き線や薄膜、サーメットなどの種類があります。カーボンは安価ですが安定度などの特性面では劣り、金属は高安定ですが巻き線摺動時の滑らかさに欠ける、薄膜では対応できる抵抗範囲が狭いなど一長一短があります。全体的には家電品などの民生用途ではコストの面でカーボンが、計測器・通信機器・医療用機器を初めとする産業用途では信頼性の面からサーメットが多くを占めています。

サーメットというのはセラミックス(ceramics)と金属(metal)を練り合わせたものです。具体的には酸化ルテニウム系の金属粒子とガラスのバインダーを混合したペースト状にして印刷の手法を用いて製造されます。サーメットは、製作できる抵抗の範囲が広いほか温度特性が良く半固定抵抗器として利用すると安定した特性が得られるうえに非常に滑らかなで微細な変化が得られ、摺動に伴うノイズの発生も少ないなどのメリットがあります。

可変の変とは

■ 基本仕様と選定法

 - 設定した後は固定抵抗と同じなので選定は簡単ですね

トリマを選定する際のパラメータとしては機械的な項目と電気的な項目があります。機械的な項目としてはサイズや取り付け位置(上から回すか横から回すか)のほかに単回転か多回転かが分かれ目になります。

一般には単回転が使用されますが単回転のものは子細に見ると設定時にごくわずかなバックラッシュ(回転の戻り)があります。したがって精密な設定を必要とする用途には多回転型のものが選ばれます。<図1,2>

図1:トリマの表記
CW:ClockWise
(時計回し方向)
CCW:Counter ClockWise
(反時計回し方向)
端子の番号は図の順で示す。 ただし、製品の端子配列が 図の順であるとは限らない。

電気的なパラメータでは全抵抗値(両端間の抵抗)が基本となります。当然ながら全抵抗値を大きくすれば可変範囲が拡がりますが設定の分解能が損なわれます。反対に抵抗値が小さいと設定(調節)範囲を満足できなくなります。実際的な設計上の目安としては、想定される可変範囲を全抵抗値の半分程度とします。

つまり、トリマの可変範囲の内の約1/2を使い、回転の端の部分はできるだけ使わずに済むようにすることです。回転の端で使用することは様々な意味から好ましくありません。電気的には抵抗値の精度や定格電力、温度係数など抵抗器としてのパラメータを考慮することになります。

例えばSMD(表面実装)用の小型品では定格電力が0.1Wなどと小さくなっていますから、使い方によっては過熱・焼損の恐れがあります。このため、選択に当たっては回路の電流と電圧が定格の範囲内であることを確認します。この場合、抵抗値によって流せる電流の大きさも異なることに注意してください。また、使用箇所の周囲温度が高い場合はディレーティングも必要になります。


A

B

C

D
図2:単回転トリマと多回転トリマ
左の二つ(A,B)は単回転、右の二つ(C,D)が多回転トリマ
上の二つ(A,C)は表面実装用、下の二つ(B,D)は差し込み実装用
右上の図はCの内部構造
1 ハウジング
2 ベースエレメント
3 電極体
4 抵抗体
5 接着剤
6 ワイパ(摺動子)
7 端子
8 ロータギア
9 シャフト

二通りの可変

■ 基本的な使われ方

 - 回路設計上の注意点はありますか
図3:
基本的な使われ方

トリマの使われ方は大きく分けて二通りあります。ひとつは電圧の分圧器として3端子で使う電圧調整としての使い方、もうひとつは電流調整のための可変抵抗器として2端子(スライダ/ワイパと片端を結ぶ)で使うものです<図3>。

両者はどちらも同じように見えますが、特性や注意点は幾つか異なる点があります。例えば、温度特性を考えた場合、電圧調整では温度による抵抗値の変化の影響をあまり受けません<図4>。

図4:抵抗値変化の影響
抵抗値が変化してもRa/Rbが一定なら、Voutは不変

これに対して電流調整では抵抗体や摺動部接触抵抗(ワイパー抵抗)の温度係数がそのまま反映されます。

また、電圧調整ではスライダから電力を取り出すことはなく、スライダがどの位置にあっても消費電力は変わりませんが、電流調整で可変抵抗器として使う場合はスライダを回して抵抗値を小さくすると回路に流れる電流が大きくなります。

その結果トリマを焼損してしまうことも考えられます。電流調整での焼損を防ぐには、トリマと直列に電流制限のための抵抗を挿入してください<図5>。電流調整で抵抗値が小さくなると相対的に摺動部の接触抵抗の影響が大きくなることも知っておきたい事柄です。

一方、電圧調整ではスライダの出力を接続する回路はハイインピーダンスにしますが、摺動時の接触抵抗の変動に起因するノイズや出力変動を押さえるためには最低1μA程度の電流が流れるようにしておく必要があります<図6>。

また、お客様からのお問い合わせが多い事項に高周波回路への応用の可否があります。トリマには周波数の依存性があり、実際のトリマの周波数特性は抵抗値や抵抗体の材料さらに形状等で大きく変わります。抵抗値に関して言えば抵抗値が低ければ高い周波数まで使用できます<図7>。

図7:サーメットトリマの周波数特性例 (COPAL CT-6P)

サーメットトリマは他と比べて周波数特性が優れており比較的高い周波数まで使えますが、最終的な特性は使用回路によっても異なりますし、スライダの位置に係わらず同じ周波数特性を保証できるというものでもありません。結論としては、回路形式とインピーダンス、信号の周波数などにより使える回路もあれば使えない回路もあるということになります。

実装上の注意としては、調整時にロックペイントが施されることがありますが、ペイントが硬化する際にスライダにトルクが加わることがあるので注意してください。また、調整に際しては指定された調整用ドライバを使用するよう心がけてください。

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